採点基準について

模擬テストや公開テスト,学校の実力テストなどで採点基準を作成するときに悩むことがあります。
それは,こんな答えを書いた場合,はたして正解にしていいだろうか,ということです。
先日の「天声人語」に,「氷が解けたら何になりますか」という問いに対して,「春になります」という答えはどうか,というのが載っていました。
理科のテストとしては,やはり不正解にせざるを得ないのですが,こんな答えを書ける感性というのは,大切にしたいと切に思います。
これと同じように,教科書の記述からは,こうした答えでないといけないが,しかし,本当はこんな答えを書いてほしい,というのはたくさんあります。
中学校の社会科では,因果関係を短絡的に結び付けなくてはならないため,原因と結果を強引に結び付けていることがよくあります。
そして,直接結びつけることがらがないと記述されないということもあります。
例えば,日露戦争の開戦について,その原因を述べた教科書はほとんどありません。
一,二文で書けないことがらは書かない,ということになっているようです。
また,もともとは長く説明されていたであろうことがらも,簡略にまとめられていて,そのため原因と結果が間違えて理解されてしまうようなところもあります。
紙面の都合上,仕方がないことだと思いますが,そのために,正答例も教科書の記述に従わざるを得ないところがあります。
例えば「潮目」が載っていない教科書があれば,「寒流と暖流のぶつかるところ」という表記にせざるを得ないことになります。日清戦争が起こった原因として,「朝鮮半島で農民の反乱があったから」という正答例を見たときには驚きました。これだけでは何の説明にもなっていません。
私は,こうした「教科書の記述の一部をそのまま引いた」答えを正答とするのではなく,当然,授業でこう教えているであろうということも許容解答として入れるようにしています。
というより,むしろそうした答えを求めるような設問を好んで出題します。
ところが,なかには,100人の答案の中で,1つあるかどうかのような答えを許容に入れているような「採点規準」を見ることがあります。
採点のことを何も考えていないか,実際に採点をしたことがないような人がつくったとしか思えません。
まず解答としてめったに書かれない答えであっても,その答えも確認するために頭の中に入れなくてはならず,また実際,どの答えにも該当しないことを毎回確かめなくてはなりません。そのため,その1題だけで膨大な作業を要することになります。
確かに,万が一の採点ミスを防ぐためには,答えとして考えられる最大限のものを列記することは,それ自体は悪いことではないと思いますし,必要なことでもあると思います。
ただ,仕事の負担が極度に増えると,短期間で採点していかなくてはならないため,単純な採点ミスを引き起こす恐れが増大すると思います。
そうなると,捉え方によっては正解にしても良い答えを不正解にしないことを防ぐことができたとしても,単なる記号の正誤を間違えて採点してしまうことにもなりかねません。
これでは何もなりません。
受験生の全答案のうちの1,2枚にあるかどうかの解答のことを心配するよりも,記号選択式や抜き出しなどの普通の問題の採点ミスを絶対にしないためにどうすれば良いかを考えるほうが大事であるように思います。
EUの共通通貨である「ユーロ」を「イウロ」や「エウロ」など,十数個もの表記を許容解答に入れるのはいかがなものかと思います。
広く,この読み方で広まっており,教科書の表現もこうなっているなら,それ以外の読み方を不正解にしても良いと思いますし,この表記で×になっても文句を言ってくる者もいないでしょう。むしろ,一般的でない表記で正解となり,これで覚えてしまうほうが好ましくないように思います。
模試で正解でも,入試で不正解となってしまっては何もなりません。
ただ,こうした採点基準を設けている模試は,意外と多いのです。
困ったことだと思います。
みなさんは,いかが思われますか。