言葉の誤用について

冬季オリンピックが始まりましたが,こうしたイベントの中継のときに,いつも気になる言葉が「鳥肌が立つ」です。
すでに多くの方が指摘されていますように,「鳥肌が立つ」というのは,おぞましいものを見たときに発する言葉であって,けっして感動したときに言う言葉ではありません。
そのため,すばらしい演技を見たときに「鳥肌が立ちました」などと言われると,こちらの鳥肌が立ってしまいます。
確かに,誤用も繰り返し使われていると,いつしかそれが正しい使い方となってしまうこともあります。
「紅一点」など,本来の意味で使われることなど,まずありません。
「彼は気の置けないやつだ」と言われると,もしかしたら誤用かな? どちらの意味で使っているのだろう,などと思うくらい誤用が多い言葉です。
しかし,さらに背筋が冷たくなるような,笑い話にもならない誤用があります。
恩師にあてた手紙で「枯れ木も山のにぎわいですから,是非,記念会にご出席ください」などと書かれると,はたして出席したものかどうか,と悩みます。
また,「あなたの業績を他山の石として,私たちも努力を続けたいと思います」などと言われると,何でこんな言い方をされなきゃならないんだ,と怒りが沸騰するでしょう。
困ったことに,別段悪気があって言っているわけではないだけに,どう対処していいのかわからず,ただ,黙るしかないということです。
苦労して,努力して,ようやく世間に認められた業績を,まだ新人の研究者や新米の社会人から「先生と私たちの研究とは五十歩百歩だと思います。これからも切磋琢磨してともに頑張りましょう」などと言われたら,勝手にやっておいてくれ,と思うことでしょう。
悪いときにしか使わない言葉というのは,使い方を誤らないように細心の注意が必要です。
逆に,「最近,タクシーの運賃は,どことも拮抗(きっこう)するようになったね」というのを耳にすると,「?」が5つくらい頭をよぎります。
運賃が拮抗する,ってどういうこと? 単に料金が均一になったということを言ってる?
あるいは,経営努力が拮抗しているという深い意味で言ってる? 拮抗の言葉の意味を知ってる? 言葉の意味を確かめておいたほうが良い?
こうした誤用を聞いて,気にしだしたら,心穏やかには過ごせません。
外山滋比古先生や金田一先生,斎藤孝先生などは,もう気も狂わんばかりでしょう。
ただ,「鳥肌が立つ」だけは,誤用が定着する前に,どうにか改めていただきたいと切に願っています。
みなさんは,いかが思われますか。